「都会(まち)はきらめく passion fruit」という煌びやかなフレーズで幕を開ける「CAT’S EYE」は、2025年9月12日に配信リリースされたAdoによるカバー楽曲です。1983年に杏里が歌い、社会現象とも言える大ヒットを記録したアニメ「キャッツ♥アイ」のオリジナル主題歌が、令和の時代に新たな息吹を吹き込まれて蘇りました。ディズニープラス「スター」で独占配信される完全新作アニメ「キャッツ♥アイ」のエンディングテーマとして起用され、Adoの妖艶な歌声が往年の名曲に新たな魅力を加えています。都会の夜に潜む”怪盗”の姿を描いたこの楽曲には、40年以上の時を超えてなお色褪せない普遍的な魅力が詰まっています。今回は、この名曲に込められたメッセージを歌詞から紐解いていきます。
アーティスト・楽曲情報
Adoは、2020年にメジャーデビュー曲「うっせぇわ」で社会現象を巻き起こした歌い手です。ユニバーサルミュージック(Virgin Music)所属、マネジメントはCloud9。映画『ONE PIECE FILM RED』での「新時代」や、「唱」「いばら」など、圧倒的な歌唱力と多彩な表現力で国内外から絶大な支持を集めています。2025年には自身2度目のワールドツアーを完遂し、名実ともに世界的アーティストとしての地位を確立しました。
「CAT’S EYE」は、1983年に杏里が歌った同名楽曲のカバーです。作詞は三浦徳子、作曲は小田裕一郎という、オリジナル版と同じクレジットのもと、編曲を『僕のヒーローアカデミア』や『ハイキュー!!』の劇伴で知られる林ゆうきが手掛けています。Adoは本楽曲について「杏里さんをリスペクトさせていただきつつ、80年代の歌唱法と自分の色を混ぜてみました」「愛され、伝説となった作品が輝きを増して現代に帰還し、そこに自分が歌として携われたことは非常に光栄に思います」とコメントしています。
タイアップとなる新作アニメ「キャッツ♥アイ」は、北条司による1981年〜1984年の人気漫画を原作とした完全新作アニメーション。昼は喫茶店を営みつつ、夜には”怪盗キャッツアイ”として美術品を狙う瞳・泪・愛の美人三姉妹が主人公のラブコメディです。なお、Adoはエンディングテーマ「CAT’S EYE」に加え、オープニングテーマ「MAGIC」(作詞・作曲・編曲:ツミキ)も担当しています。
考察①:都会の夜に香る”passion fruit”…欲望と魅惑の幕開け
都会(まち)はきらめく passion fruit
ウインクしてる everynight
グラスの中の passion beat
一口だけで fall in love
冒頭から、都会の夜の華やかさと危うさが鮮やかに描き出されています。「passion fruit」という言葉は、甘く芳醇な果実の香りを想起させると同時に、”passion”=情熱という意味を内包しています。都会そのものが一つの果実のように甘い誘惑を放っているという表現は、これから始まる物語の妖艶なトーンを見事に予告しているのではないでしょうか。
「ウインクしてる everynight」は、都会の街並みが毎晩のようにきらめき、まるで誰かに向かってウインクしているかのようだという描写です。ここでの主語は「都会」ですが、同時にこれから登場する”mysterious girl”、すなわち怪盗キャッツアイの三姉妹の姿とも重なります。「グラスの中の passion beat」では、グラスに注がれた飲み物の中にさえ情熱の鼓動が潜んでいるという、感覚的で官能的な世界観が展開されます。「一口だけで fall in love」というフレーズが示すように、この夜の世界は一瞬で人の心を奪ってしまう魔力を秘めているのです。
考察②:”秘密めいた扉”が開く瞬間…二重生活への誘い
甘いメロディ 風にのれば今夜
秘密めいた扉が どこかで開くよ
Bメロでは、甘いメロディが風に乗って夜の街を漂う情景が描かれます。ここで注目すべきは「秘密めいた扉がどこかで開くよ」という一節です。この「扉」は、原作における怪盗キャッツアイの三姉妹が”もう一つの顔”へと切り替わる瞬間を象徴していると考えられます。昼間は喫茶店のオーナーとして日常を過ごし、夜になると華麗な怪盗へと変身する。その境界線にある「扉」が開く瞬間を、歌詞は詩的に描き出しています。
「どこかで」という曖昧な表現もまた巧みです。怪盗の行動は秘密裏に行われるものであり、その「扉」がどこにあるのかは誰にもわからない。この不確かさこそが、キャッツアイという存在の神秘性を高めている要素ではないでしょうか。日常と非日常の境界が、甘いメロディと夜の風によって曖昧になっていく。その感覚は、私たちが日常の中でふと「別の自分」に出会う瞬間にも通じるものがあるかもしれません。
考察③:”Cat’s Eye”の緑色の光…妖しさと魅力の象徴
見つめる Cat’s Eye
magic play is dancing
緑色に光る
妖しく Cat’s Eye
サビに入ると、楽曲の核心である「Cat’s Eye」が登場します。「見つめる Cat’s Eye」という表現は、猫の目のように鋭くも美しい眼差しで獲物を見据える怪盗の姿を思わせます。猫の目は暗闇の中でも光を反射して輝くことから、夜に活動する怪盗のイメージと完璧に重なります。
「magic play is dancing」というフレーズは、怪盗としての行動がまるで魔法のダンスのように華麗であることを表現しています。盗みという行為を「magic play」と表現することで、犯罪的な要素ではなく、芸術的で優雅な側面が強調されているのです。そして「緑色に光る」という描写は、猫の目が暗闇で緑色に光る特徴を捉えたものであり、同時に宝石のエメラルドを連想させる美しさも含んでいます。「妖しく」という形容詞が、その光が単なる美しさではなく、人を惑わすような危うい魅力を帯びていることを示唆しています。
考察④:”月明かり”と”mysterious girl”…夜に生きる者たちの美学
月明かり浴びて
we get you…
mysterious girl
サビの締めくくりとなるこのパートでは、「月明かり浴びて」という自然光のもとで活動する怪盗の姿が浮かび上がります。月明かりという光源の選択は非常に象徴的です。太陽の光、すなわち昼間の合法的な世界ではなく、月の光、夜の秘密めいた世界で輝く存在。それが”Cat’s Eye”であり”mysterious girl”なのです。
「we get you」という英語フレーズには、「あなたを捕まえる」「あなたを手に入れる」という二重の意味が込められていると解釈できます。怪盗としてターゲット(美術品)を手に入れるという意味と、その魅力で見る者の心を捉えてしまうという意味。この二重性こそが、キャッツアイという作品の本質的な魅力であり、原作者・北条司が描いた「追う者と追われる者の関係が反転する」というテーマを端的に表現しているのではないでしょうか。「mysterious girl」という呼称が最後に置かれることで、すべてが謎のベールに包まれたまま余韻を残します。
考察⑤:”Bell”が告げるもの…終わりと始まりの二面性
Bellを鳴らせば passion time
終わりを告げる everynight
青いドレスの sexy girl
口づけしては 幻
2番のAメロでは、1番の華やかさから一転して、より切なく儚い色彩が加わります。「Bellを鳴らせば passion time」の「Bell」は、怪盗が犯行を知らせる予告状の鐘であると同時に、夜の終わりを告げる鐘でもあります。「終わりを告げる everynight」は、毎晩繰り返される怪盗の活動にも、いつか終わりが来ることを暗示しているようです。
「青いドレスの sexy girl」は、1番の都会のきらめきとは対照的に、より冷たく知的な色彩を帯びています。青という色が持つクールさと神秘性が、怪盗の別の側面を映し出しています。そして「口づけしては幻」。この一節は、怪盗と刑事・内海俊夫との恋愛関係を彷彿とさせます。キスをしても、その相手は幻のように消えてしまう。触れられそうで触れられない、その距離感こそが原作の恋愛模様の核心であり、この歌詞が40年の時を超えて多くの人の心に響く理由なのかもしれません。
考察⑥:”愛を映すミラーが割れる”…幻想の崩壊と真実の姿
古いピアノ 風にのれば夜明け
愛を映すミラーが どこかで割れるよ
2番のBメロは、楽曲全体の中で最も深い感情が込められたパートではないでしょうか。1番では「甘いメロディ」だったものが「古いピアノ」に変わり、1番の「秘密めいた扉がどこかで開くよ」は「愛を映すミラーがどこかで割れるよ」へと変化しています。この対比は非常に意味深いものです。
「古いピアノ」は、過ぎ去った時代への郷愁を感じさせると同時に、長い年月を経ても変わらない本質的な感情を象徴しています。そして「愛を映すミラーが割れる」という表現。ミラー(鏡)は真実を映し出すものですが、それが「割れる」ということは、愛の真実が壊れてしまうこと、あるいは怪盗としての虚構の姿と本当の自分との間の矛盾が限界に達することを意味しているのではないでしょうか。1番で「扉が開く」ことで始まった二重生活は、やがて「ミラーが割れる」という形で崩壊の予感を見せるのです。「風にのれば夜明け」という時間の移行も象徴的で、夜の魔法が解ける朝の訪れとともに、すべての幻想が消え去る切なさを感じさせます。
考察⑦:”魅かれて”から”迷って”へ…サビに刻まれた感情の変遷
2番のサビでは、1番の「見つめる」「妖しく」が「魅かれて」「迷って」へと変化しています。この動詞の変化に、楽曲全体を貫く感情の流れが凝縮されています。
1番では、Cat’s Eyeは対象を「見つめる」存在として描かれていました。そこには冷静さと余裕があり、狙った獲物を確実に捉える怪盗の自信が感じられます。しかし2番になると「魅かれて」、つまり自分自身が何かに引き寄せられている。狩る側だったはずの怪盗が、いつしか感情に「魅かれて」しまい、「迷って」しまう。これは原作における瞳と内海の恋愛関係、すなわち怪盗と刑事という敵同士でありながら惹かれ合ってしまう関係性を見事に反映していると考えられます。
そしてラスサビで再び1番の「見つめる」「妖しく」に戻ることで、迷いを振り切り、再び怪盗としての自分に立ち返る姿が描かれます。この循環構造は、キャッツアイの三姉妹が何度でも夜の世界に戻っていく宿命を暗示しているのではないでしょうか。
独自の視点:三つの”passion”が描く感情のグラデーション
この楽曲で特筆すべきは、「passion」という言葉が三つの異なる形で登場する点です。1番Aメロの「passion fruit」「passion beat」、そして2番Aメロの「passion time」。この三つの”passion”は、それぞれ異なるニュアンスを持っています。
「passion fruit」は甘い誘惑と官能、「passion beat」は高鳴る鼓動と興奮、そして「passion time」は情熱の時間が過ぎ去っていくという時間的な有限性を示しています。つまり、passionという言葉一つをとっても、甘美な始まり→高揚→やがて訪れる終わり、という感情の流れが組み込まれているのです。作詞家・三浦徳子のこの巧みな言葉遊びは、1983年の楽曲でありながら、現代においても新鮮な驚きを与えてくれます。
また、Adoが80年代の歌唱法と自身の持ち味を融合させたという点も興味深い要素です。原曲の杏里が持つスマートでクールな歌声に対し、Adoならではの力強さと繊細さを兼ね備えた歌唱は、この楽曲に新たな時代の息吹を吹き込んでいます。
まとめ
「CAT’S EYE」は、都会の夜に生きる”mysterious girl”の魅力と葛藤を、わずか数分の楽曲の中に凝縮した名曲です。怪盗としての華麗さと、その裏に隠された切なさ。「見つめる」から「魅かれて」「迷って」へと変化する感情の揺れ動きは、誰もが心の中に持つ「もう一つの自分」への憧れと不安を映し出しています。
1983年に三浦徳子と小田裕一郎が生み出し、杏里が命を吹き込んだこの楽曲は、40年以上の時を経てAdoという新たな表現者を得ました。80年代のシティポップの輝きと、令和のアーティストの感性が融合したこのカバーは、世代を超えて「CAT’S EYE」の魅力を伝える架け橋となっています。
ぜひ、月明かりの下で妖しく輝く”Cat’s Eye”の姿を思い浮かべながら、この楽曲を聴いてみてください。あなたの心の中にも、「秘密めいた扉」がどこかで開く瞬間があるかもしれません。Adoが令和に蘇らせた伝説の名曲を、何度でも味わっていただければ幸いです。
楽曲情報
- 曲名:CAT’S EYE
- アーティスト:Ado
- 作詞:三浦徳子
- 作曲:小田裕一郎
- 編曲:林ゆうき
- リリース日:2025年9月12日
- タイアップ:新作アニメ「キャッツ♥アイ」エンディングテーマ(ディズニープラス「スター」独占配信)