空港のアナウンスを思わせる冒頭の一節。搭乗手続きが始まり、乗客たちが次の目的地へと動き出す――そんな光景が浮かぶ「TERMINAL」は、Da-iCEの9thアルバム『TERMiNaL』の表題曲であり、結成15周年を迎えた彼らの「ここからまた始める」という宣言だ。2026年1月14日にリリースされた本作は、リーダー・工藤大輝とボーカル・大野雄大が初めて作詞タッグを組み、Number_i「GOAT」やBE:FIRST「Milli-Billi」を手がけた気鋭トラックメイカー・MONJOEが編曲を担当。航空機のSEを連想させるサウンドデザインとダンサブルなビートの上に、Da-iCEの15年間が凝縮されている。この記事では、空港という壮大なメタファーの裏に潜む5人の覚悟を読み解いていく。
アーティスト・楽曲情報
Da-iCE(ダイス)は、ボーカルの大野雄大・花村想太、パフォーマーの工藤大輝・岩岡徹・和田颯の5人からなるダンス&ボーカルグループ。2011年に渋谷の小さなクラブから活動をスタートし、2014年にメジャーデビュー。「CITRUS」で第63回日本レコード大賞を受賞、「I wonder」で第75回NHK紅白歌合戦に初出場を果たすなど、日本の音楽シーンの最前線を走り続けている。4オクターブのツインボーカルと高いダンススキルを武器に、J-POPの枠を軽々と飛び越える存在だ。
「TERMINAL」は、アルバム『TERMiNaL』のコンセプトそのものを体現する一曲。公式サイトによれば、タイトルには「次なるステージへと歩み出す”再出発点”とし、これまで積み重ねてきた経験と進化を胸に新たな未来へと飛び立つ意思」が込められている。注目すべきは、本楽曲が工藤大輝と大野雄大の初の共作であるという点。普段パフォーマーとしてグループを牽引する工藤と、ボーカリストとして楽曲の核を担う大野。立場の異なる二人が言葉を紡ぎ合ったからこそ、この歌詞には「歌う側」と「魅せる側」双方の視座が溶け込んでいる。
考察①:搭乗開始のアナウンスが告げる”次のChapter”
Just now boarding
All passengers for flight to 次の Chapter
Future’s calling
定員なし もれなく連れていこう
歌い出しの「Just now boarding」は、まさに空港の搭乗案内そのものだ。しかし行き先は具体的な都市名ではなく「次のChapter」。飛行機の目的地をキャリアの新章に置き換えるこの手法が、楽曲全体の構造を決定づけている。さらに「定員なし もれなく連れていこう」という一節が鋭い。通常、航空便には座席数という絶対的な上限がある。その制約を「なし」と宣言することで、ファン(=6面)を一人残らず連れていくというDa-iCEの姿勢が滲む。「もれなく」という日常的な言葉の選択が、壮大な空港メタファーに体温を与えている。
考察②:EntranceからConcourseへ、”自分のコンソール”を手にする瞬間
Entrance 越え Concourse
We’re sitting at our own console
膨らむ想像 軽々と超えてく Reality
全席 First class
「Entrance」から「Concourse」への移動は、物理的な空港内の動線であると同時に、Da-iCEが前作アルバム『MUSi-aM』やアリーナツアー「EntranCE」を経て新たなフェーズに入ったことを示唆する。注目したいのは「We’re sitting at our own console」という表現だ。consoleは操縦席の制御盤を意味する。つまり彼らは乗客ではなく、自らの旅を操縦するパイロットの立場にいる。他者にハンドルを委ねず、自分たちで進路を決める。その覚悟が「全席 First class」という言い切りに帰結する。全員が最上級の席に座れるのは、自分たちで機体を飛ばしているからだ。
考察③:「紆余曲折」とDawnの関係
紆余曲折経て向かう先は Dawn
照明落ちたら Take it slow
力抜いて Relax and flow
瞬き一つが加速装置
ここで初めて日本語のフレーズ「紆余曲折」が登場する。英語と日本語が軽やかに行き交うこの楽曲の中で、あえて四字熟語を配置した重みは大きい。Da-iCEは2011年の結成から15年、渋谷のクラブで数人の観客の前で踊っていた時代から、アリーナツアーのSOLD OUTまで、文字通り紆余曲折を経てきたグループだ。その蛇行の末にたどり着くのが「Dawn」=夜明けであるという構図は、苦しい時間を飛行中の暗闇に、そして到達点を朝日に見立てている。「照明落ちたら Take it slow」は、ライブ前の暗転の瞬間のようでもあり、ステージに立つ直前の静寂と集中が凝縮された一節だ。
考察④:「5席並んだThrone」が語るもの
毎回が Last flight
最前列に5席並んだ Throne
この2行は、楽曲全体で最も自己言及的なフレーズだ。Da-iCEは5人組。「最前列に5席並んだ Throne(玉座)」とは、まさに彼ら自身を指している。ファーストクラスどころか、最前列の王座に5つの席が並んでいるという映像的な表現は、15年の歩みを経て揺るぎないポジションを築いた自負の表れだ。そして「毎回が Last flight」という言葉が、その矜持に緊張感を加える。「最後のフライト」だと思って毎回全力を出す。この感覚は、Da-iCEが結成初期から年間100本以上のライブをこなし、一つひとつのステージを積み重ねてきた姿勢と直結する。王座にあぐらをかくのではなく、常に背水の陣で挑む。その二律背反が、たった2行に凝縮されている。
考察⑤:「地図にない世界」と終わりなき旅路の系譜
地図にない世界
誰も届かない高みへと Fly
「終わりなき旅路の向こう側へ」というサビのフレーズは、Mr.Childrenの名曲「終わりなき旅」を想起させる。ただし桜井和寿が描いた「終わりなき旅」が個人の内面的な闘いに焦点を当てていたのに対し、Da-iCEの「終わりなき旅路」は集団で飛ぶフライトだ。一人ではなく5人で、さらにファンも「定員なし」で巻き込みながら前に進む。「地図にない世界」とは、前例のない場所への飛行を意味する。J-POPのダンス&ボーカルグループとして、K-POPとも既存のJ-POPとも異なる独自のポジションを開拓し続けるDa-iCEにとって、この歌詞は比喩であると同時にリアルな現在地でもある。
考察⑥:最後の問いかけが示す”ターミナル”の本質
この先はどこへと向かってく?
最果てには何が待ってる?
Go through the gate
Take on this game
終わりなき旅路の向こう側へ
We take off
楽曲の大半は宣言と決意で構成されているが、最終盤に突如として「この先はどこへと向かってく?」「最果てには何が待ってる?」という問いが挿入される。ここが「TERMINAL」という楽曲の核心だ。ターミナルとは「終着点」と「出発点」の両義を持つ言葉であり、この問いかけはまさにその二重性を体現している。答えが用意されていない。行き先は確定していない。それでも「We take off」と離陸する。不確定な未来に向かって飛ぶことそのものを肯定するこの姿勢は、Da-iCEがキャリアを通じて実践してきたことの歌詞化だ。渋谷のクラブから武道館へ、そしてアリーナへ。次のターミナルがどこにあるかは、飛んでみなければわからない。
独自の視点:工藤×大野の”初フライト”が生んだ化学反応
「TERMINAL」の歌詞を語るうえで見逃せないのが、工藤大輝と大野雄大の初共作という事実だ。Da-iCEではこれまで、工藤が花村想太と組んで楽曲を制作するケースが多く、「ノンフィクションズ」(2025夏の高校野球応援ソング/熱闘甲子園テーマソング、第67回日本レコード大賞作曲賞受賞)もその黄金コンビから生まれた。一方、大野はソロ活動で作詞作曲に取り組んできた実績がある。この二人が初めてタッグを組んだことで、歌詞にはパフォーマーの視点から見た「ステージの景色」と、ボーカリストの感覚から生まれる「声に乗せる言葉の手触り」が共存している。「瞬き一つが加速装置」のような身体感覚に根差した表現と、「Dreams out of control」のようなスケール感のある英語フレーズのバランスは、まさにこの異色のタッグだからこそ成立した。トラックメイカーMONJOEの洗練されたビートメイクも加わり、Da-iCEの新たな可能性を切り拓く一曲となっている。
まとめ
「TERMINAL」は、空港という一つの巨大なメタファーを通じて、Da-iCEの15年間と、ここから先の未来を同時に描き出した楽曲だ。搭乗案内から始まり、コンソールを手に取り、全席ファーストクラスの機体で離陸する。その飛行の中で語られるのは、「毎回が Last flight」という緊張感と、「定員なし」で誰も置いていかないという包容力の共存である。
工藤大輝と大野雄大の初タッグ、そしてMONJOEのサウンドメイクが生んだこの楽曲は、Da-iCEが到着点ではなく出発点に立っていることを高らかに宣言している。「この先はどこへと向かってく?」という問いに、彼らはまだ答えを出していない。答えを出さないまま飛び立つこと。それこそが”ターミナル”の本質であり、Da-iCEというグループの在り方そのものだ。
ぜひ、アルバム『TERMiNaL』を通して聴きながら、この楽曲が持つ「出発」の高揚感を体感してみてほしい。
楽曲情報
- 曲名:TERMINAL
- アーティスト:Da-iCE
- 作詞:工藤大輝・大野雄大
- 作曲:工藤大輝・大野雄大・MONJOE
- 編曲:MONJOE
- リリース日:2026年1月14日
- 収録作品:9thアルバム『TERMiNaL』