「理想ばかりで夢が叶うか」そんな言葉を投げかけられても「No, I don’t care」と笑い飛ばす。平井 大の「このオンガクと共に」は、そんな痛快な一節から幕を開ける楽曲です。2025年7月21日の海の日に、ラジオリスナーや夏を愛するすべての人へ向けたプレゼントとして制作された本曲は、当初リリース予定のない楽曲でした。しかし、ラジオオンエアやSNSでの期間限定無料配布を通じてファンからリリースを熱望する声が多数寄せられ、アレンジを一部変更したうえで2025年9月24日に正式配信が実現しました。ウクレレをルーツに持つ平井 大らしい温かなサウンドに乗せて、「音楽と共に自分らしく歩こう」という普遍的なメッセージが軽やかに綴られています。今回は、この楽曲に込められた想いを歌詞から紐解いていきます。
アーティスト・楽曲情報
平井 大(ひらい だい)は、1991年生まれ・東京都出身のシンガーソングライターです。3歳の頃に祖母からもらったウクレレをきっかけに音楽の道を歩み始め、2011年にインディーズデビュー、2013年にavex traxからメジャーデビューを果たしました。サーフミュージックをベースとした心地よいアコースティックサウンドと透明感のあるハスキーボイスが特徴で、「Stand by me, Stand by you.」「THE GIFT」「祈り花」など、聴く人の心に寄り添う楽曲を数多く生み出しています。
「このオンガクと共に」は、2025年の海の日に合わせてラジオリスナーと夏を愛するすべての人へ向けて制作された楽曲です。当初はラジオでのオンエアとSNSを通じた期間限定の無料配布のみで届けられる予定でしたが、鵠沼海浜公園で開催された「MURASAKI SHONAN OPEN 2025」でのフリーライブ披露や、Instagram上の弾き語り動画をきっかけにリリースを求める声が殺到。急遽アレンジを一部変更し、9月24日に配信シングルとして正式リリースされました。作詞はEIGO(ONEly Inc.)と平井 大の共作、作曲は平井 大、編曲は平井 大とHaruhito Nishi(ONEly Inc.)が手がけています。
考察①:カタカナの「オンガク」が意味するもの
「理想ばかりで夢が叶うか」なんて
言われるけどNo, I don’t care
Cause I trust in this, friend!
楽曲はまず、夢を追う者に対する否定的な言葉を真正面から受け止め、それを軽やかにかわす場面から始まります。「理想ばかりで夢が叶うか」という言葉は、現実主義的な周囲の声を代弁したものでしょう。しかし主人公はそれに対して「No, I don’t care」と即座に応答し、さらに「Cause I trust in this, friend!」と、自分が信じるものへの確信を語ります。ここでの「this」は、まさにタイトルにもなっている「このオンガク」を指していると考えられます。
注目すべきは、タイトルが「音楽」ではなくカタカナの「オンガク」と表記されている点です。漢字の「音楽」が持つフォーマルで堅い印象をあえて崩し、カタカナにすることで、もっと身近で自由な存在としての音楽を表現しているのではないでしょうか。堅苦しいルールや評価に縛られない、ありのままの音を楽しむ、そんな平井 大の音楽観がタイトルの一文字一文字に宿っていると感じられます。
考察②:「音符の中では好きにやらせてもらうよ」音楽という自由な領域
音符の中では好きにやらせてもらうよ
どんな夢も希望も自由自在 僕らのものさ!
続くこのフレーズでは、「音符の中」という表現が印象的です。現実世界では理想を否定されることもあるけれど、音楽という領域の中では誰にも邪魔されない自由がある。そんな宣言とも取れる力強い言葉です。「好きにやらせてもらうよ」という一人称の表現には、反骨精神というよりも、穏やかな自信と覚悟が滲んでいます。
さらに「どんな夢も希望も自由自在 僕らのものさ!」と一人称が「僕ら」に変わる点も重要です。これは平井 大自身だけでなく、この楽曲を聴いているリスナー全員を巻き込む言葉であり、音楽を通じた連帯感が表現されています。音楽の中では、誰もが自分の夢や希望を自由に描くことができる。そのメッセージは、海の日にラジオを通じて届けられたこの楽曲の制作背景とも美しく重なります。
考察③:フラれた夜も運命の朝も人生の光と影を包み込む音楽
フラれた夜も
運命に出逢った朝も
いつだってあったんだ
Bメロで歌われるこの短いフレーズは、人生の陰と陽を見事に凝縮しています。「フラれた夜」という失意の時間と「運命に出逢った朝」という希望の時間。この二つを並列に置くことで、人生にはどちらの瞬間も等しく存在するという事実を静かに肯定しています。
特に注目したいのは「いつだってあったんだ」という過去形の結びです。今ではなく「あった」と振り返ることで、つらい夜も素晴らしい朝も、すべてが今の自分を形作ってきた大切な経験であると認めているのです。そしてそのすべての瞬間に、きっと音楽が寄り添っていた。という暗黙のメッセージが、この後に続くサビの「Hey, turn up the radio」へと自然に繋がっていきます。悲しい時も嬉しい時もラジオをつけて音楽に身を委ねた、そんな誰もが持つ記憶に語りかけるような温かさがあります。
考察④:「Turn up the radio, turn down the bad vibes」ラジオが象徴するもの
Hey, turn up the radio turn down the bad vibes
一人一人 それぞれ色々あるけれど
Don’t worry 続いてくさ どこまでも
Slowに歩いてゆこうよ This long and sloppy road
このオンガクと共に
サビの冒頭「Turn up the radio, turn down the bad vibes」は、この楽曲の核心とも言えるフレーズです。ラジオのボリュームを上げて、ネガティブな感情を下げる。このシンプルな対比構造の中に、音楽が持つ力への深い信頼が込められています。ここで「radio」が選ばれていることは、単なる偶然ではないでしょう。この楽曲自体がラジオを通じて届けられたという制作背景を考えると、平井 大にとってラジオとは、音楽とリスナーを繋ぐ特別な存在なのではないでしょうか。
「一人一人 それぞれ色々あるけれど」という言葉は、全員が異なる人生を歩んでいることへの優しい承認です。それでも「Don’t worry 続いてくさ どこまでも」と背中を押し、「Slowに歩いてゆこうよ」と急がなくていいと語りかける。完璧を求めず、ゆっくりでいい、自分のペースでいいという平井 大らしいメッセージが凝縮されたサビだと言えます。
考察⑤:ガス欠でもパンクでも演奏は止まらない、人生を楽器で喩える独自の視点
ガス欠になったり いきなりパンクしたり
人生なかなか忙しいね 簡単じゃないね
でもそれでも演奏は止まらないんだ
ギターがだめならドラムさ それもだめならピアノ
でも弾いてみよう
2番では、人生のトラブルを車のアクシデントに喩える導入から、音楽の比喩へと鮮やかに転換していきます。「ガス欠」や「パンク」は、エネルギー切れや突然のトラブルを意味し、多くの人が共感できる人生の困難の象徴です。「人生なかなか忙しいね 簡単じゃないね」という語りかけには、上から目線の説教ではなく、同じ目線に立った共感が感じられます。
そして「でもそれでも演奏は止まらないんだ」という転換が見事です。人生を「演奏」として捉え、一つの手段がだめなら別の手段を試せばいいと説く。「ギターがだめならドラムさ それもだめならピアノ」この発想は、ウクレレ・ギター・作詞・作曲・編曲とマルチに活動する平井 大ならではの実感から生まれた言葉ではないでしょうか。完璧な演奏でなくても、とにかく「弾いてみよう」という姿勢こそが大切だというメッセージは、音楽に限らず人生のあらゆる場面に通じる普遍的な教えです。
考察⑥:「This long and sloppy road」完璧じゃない道を共に歩く
想い思いのフレーズで奏でるんだLIFE
Hey, turn up the radio turn down the bad vibes
一つ一つ 願いと未来を重ねてこう
Darlin’ 続いてくから どこまでも
気ままに歩いてゆこうよ This long and sloppy road
2番のサビでは、1番の「一人一人」が「一つ一つ」に変わり、人から出来事へと視点が移ります。「願いと未来を重ねてこう」という表現は、一歩一歩の積み重ねが未来を作るという前向きな時間感覚を表しています。また、呼びかけも「Don’t worry」から「Darlin’」へと変わり、より親密で温かいトーンになっている点も印象的です。
この楽曲全体を通じて繰り返される「This long and sloppy road」というフレーズは、人生の本質を見事に言い当てています。「sloppy」は「だらしない」「整っていない」という意味を持つ英語ですが、ここではネガティブな意味ではなく、完璧でなくても味わいがある道のりとして肯定的に使われていると考えられます。きちんと舗装された高速道路ではなく、でこぼこで曲がりくねった田舎道。でもだからこそ、ゆっくり景色を楽しみながら歩ける。そんな人生観が、平井 大の音楽の根底に流れるサーフカルチャーやハワイアンスピリットと共鳴しているのではないでしょうか。
独自の視点:ラジオから生まれた「ラジオの歌」
この楽曲を考察するうえで見逃せないのは、歌詞と制作背景の見事な一致です。「Turn up the radio」と繰り返し歌われるこの楽曲が、まさにラジオを通じて届けられた楽曲であるという事実は、単なる偶然とは思えません。ラジオという媒体は、テレビやストリーミングと違い、音だけで人と繋がるメディアです。その特性は「音楽そのものの力」を最も純粋に信じる平井 大の姿勢と深く響き合っています。
また、「想い思いのフレーズで奏でるんだLIFE」というフレーズにおける「想い思い」という表現も興味深い点です。「思い思い」(各自それぞれ)という慣用表現に「想い」の漢字を重ねることで、感情を込めた自分だけのフレーズという意味合いが加わっています。人生という楽曲を、自分だけの想いを込めたフレーズで演奏していく。この言葉遊びには、作詞に携わったEIGOと平井 大の繊細なセンスが光っています。
まとめ
「このオンガクと共に」は、音楽の持つ力を信じ、完璧でなくても自分のペースで歩んでいこうという、平井 大の音楽哲学が凝縮された一曲です。人生を「演奏」に喩え、一つの楽器がだめなら別の楽器を手に取ればいいと歌うその姿勢は、マルチプレイヤーとして活動してきた彼自身の生き方そのものとも言えるでしょう。
「Turn up the radio, turn down the bad vibes」というシンプルなフレーズに込められた深い意味、カタカナで表記された「オンガク」の自由さ、そして「This long and sloppy road」という人生の肯定、この楽曲には、平井 大が長年の活動を通じて培ってきた「音楽と人生への愛」が溢れています。ぜひ、あなた自身の人生のBGMとして、この楽曲をラジオのボリュームを上げて聴いてみてください。きっと、完璧じゃない毎日がほんの少し愛おしく感じられるはずです。
楽曲情報
- 曲名:このオンガクと共に
- アーティスト:平井 大
- 作詞:EIGO(ONEly Inc.)・Dai Hirai
- 作曲:Dai Hirai
- 編曲:Dai Hirai・Haruhito Nishi(ONEly Inc.)
- リリース日:2025年9月24日
- 収録作品:配信シングル「このオンガクと共に」