「アイドルのくせ ラッパーのくせ」という痛烈な一節が、この楽曲の核心を突いています。SKY-HIが自身のアルバム『Success Is The Best Revenge』の一曲として2025年12月12日にリリースした「ID feat. SHUNTO (BE:FIRST), RYUKI (MAZZEL), JIMMY (PSYCHIC FEVER), FELIP」は、ダンス&ボーカルグループに所属しながらラップスキルを磨いてきた実力派ラッパーたちが集結し、それぞれの視点から「自分がラップをする理由」を提示するマイクリレー曲です。
先行シングルとして2025年1月27日に配信され、D.U.N.K. Showcaseでの圧巻のライブパフォーマンスも話題となった本曲。タイトル「ID」には、身分証明書、心理学用語の「イド」、アイドル、アイデンティティという複数の意味が込められています。今回は、この楽曲に込められたメッセージを歌詞から紐解いていきます。
アーティスト・楽曲情報
SKY-HI(日高光啓)は、ダンス&ボーカルグループAAAのメンバーとして活動する傍ら、クラブシーンでラッパーとしてのキャリアを築き上げてきた異色の経歴を持つアーティストです。2020年に芸能事務所BMSGを設立し、オーディション「THE FIRST」からBE:FIRSTを、「MISSIONx2」からMAZZELを輩出するなど、プロデューサー・経営者としても日本の音楽シーンに大きな影響を与えています。
本楽曲は、SKY-HIが約3年ぶりにリリースしたヒップホップアルバム『Success Is The Best Revenge』に収録されています。客演にはBE:FIRSTのSHUNTO、MAZZELのRYUKI、PSYCHIC FEVERのJIMMY、そしてフィリピンのP-POPグループSB19のFELIPという、ボーイズグループ界の実力派ラッパーが名を連ねています。ジャンルの狭間で誤解や不条理と闘ってきたSKY-HIが、同じ境遇を生きる若きラッパーたちと共に、スキルフルなマイクリレーを繰り広げる一曲です。
考察①:「大人のはったり」に抗い続けた少年時代、SKY-HIの原点
やっぱり付き合わされてきた大人のはったり
小1だから気付けないbad habit
今でも残るトラウマと思想
何者でもないあの頃 ダンス、ダメと言われたが今どこ?
楽曲の冒頭で、SKY-HIは自身の少年時代を振り返ります。小学1年生の頃から大人たちの「はったり」、つまり虚勢や欺瞞に付き合わされてきたという告白は、幼くしてエンターテインメント業界に足を踏み入れた彼ならではの実体験に基づいていると考えられます。SKY-HIはジャニーズJr.として活動していた過去を持ち、その後AAAのメンバーとなりました。「ダンス、ダメと言われた」という一節は、グループ内でラップパートが軽視されていた時期の苦悩を反映しているのではないでしょうか。
注目すべきは、そうした過去の痛みを「トラウマと思想」として受け止めつつも、「感謝がねぇわけじゃねえから」と続ける懐の深さです。苦い経験をした相手にも感謝を示しながら、「今じゃどうよ業界ごと変えるための音楽日本」と宣言する姿勢に、SKY-HIの覚悟と矜持が凝縮されています。過去の否定ではなく、過去を糧にして業界全体を変革しようとする姿は、多くのリスナーの心に響くものがあるでしょう。
考察②:「AからBへの飛び級」、SHUNTOが提示する新世代の存在証明
AからBへの飛び級 どうも
これしかないとかじゃないし言わないが
そもそもこの景色以外は見てない
青春どころか物心
着いた時から注いだ博多の男の子
SHUNTOのバースは、「AからBへの飛び級」という印象的なフレーズで始まります。これはAvexアカデミー(A)からBE:FIRST(B)への飛躍を示唆していると解釈できます。「これしかないとかじゃない」と言いながらも、「この景色以外は見てない」と断言する矛盾した表現が絶妙です。選択肢がなかったわけではないが、最初からこの道しか見ていなかったという覚悟が滲んでいます。
続く「頭からつま先まで踊るビート上/キックとスネアハイハット一個も/全部この言葉でリード」では、ダンサーとしての身体性とラッパーとしての言語力を融合させた宣言がなされます。そして「若僧が世界変えるのが怖いか?」という挑発的な問いかけは、既存の価値観に対する若い世代からの挑戦状と言えるでしょう。「俺は俺のまま死にたい」という強烈なパンチラインには、他者の評価ではなく自己のアイデンティティを貫く決意が込められているのではないでしょうか。
考察③:「ゴールドのメダル」を分け合いたい、RYUKIの掲げる連帯の美学
ゴールドのメダル
掲げるより皆でそれ分けれるようになりたい
高度上げてFLY 飛ばす期待
欲張りもう待ち焦がれてる機内
MAZZELのRYUKIによるバースは、個人の栄光よりも仲間との連帯を重視する姿勢から始まります。「ゴールドのメダル」を独り占めするのではなく、「皆でそれ分けれるようになりたい」という願望は、BMSGが掲げる「上り詰める、だけど蹴落とさない」というフィロソフィーと見事に呼応しています。
「Stereo type ぶっ飛ばすkiller/古いシャツ脱ぎ捨ててく美学」では、固定観念(ステレオタイプ)を破壊し、古い価値観を脱ぎ捨てていくことを「美学」と表現しています。ここでの「古いシャツ」は、ボーイズグループに対する旧来のイメージやレッテルの比喩とも読み取れます。さらに「嘲笑ったヤツも一緒にbig up」と続けることで、かつて自分たちを嘲笑した人々すら巻き込んで共に盛り上がるという、器の大きさを示していると言えるでしょう。
考察④:「信頼と実績の要」、JIMMYが誇る国産の矜持
回せ回せ回せ
ボトル、体、経済も回せ
カマせカマせカマせ
“信頼と実績の要”PCF
JIMMYのバースは、勢いのあるフロウで畳みかけるように展開されます。「回せ」の三連呼は、パーティーの高揚感を演出しながら、「ボトル、体、経済」と並列させることで、エンターテインメントが文化的にも経済的にも社会を動かす力を持つことを暗示しています。「PCF」はPSYCHIC FEVERの略称であり、「信頼と実績の要」と自らのグループを堂々と名乗る姿に、ラッパーとしての自負が表れています。
「どんな家庭?もう聞き飽きた」という一節は、アーティストの出自やバックグラウンドをことさらに問う風潮への反発と捉えることができます。「文句無し誇ってる国産」と胸を張る姿勢には、海外のヒップホップカルチャーへの追随ではなく、日本で生まれ育った自分たちのラップに対する確かな誇りが感じられます。ストリート出身でないことへの引け目ではなく、自分たちの文脈から生まれたラップこそが本物であるという主張が、この楽曲全体のテーマと深く結びついています。
考察⑤:ビサヤ語で世界に吠える、FELIPの越境するアイデンティティ
KUSOG KAY ANG FIRE ALARM
MIABOT LANG KO FIRE NA DAYON
GRABE BANG AURA KO, DAMN!
SUKO NAPOD ILANG MGA FAN
フィリピンのP-POPグループSB19のメンバーであるFELIPは、母語であるビサヤ語(セブアノ語)でバースを展開します。これは楽曲において極めて重要な意味を持っています。日本語、英語に加えてビサヤ語が加わることで、「ID」という楽曲がアジア全体に広がるボーダーレスな存在証明となっているからです。
FELIPはビサヤ語で、自身のオーラの強さ、模倣者への拒絶、そしてSNSの批判に左右されない確固たる自我を表明しています。「THEY WANNA CONTROL ME, CONTROL ME, CONTROL ME BUT THEY CAN’T」という英語パートでは、外部からの支配を拒否する姿勢が明確に示されます。そして「COZ IM A FUCKIN STAR!」という宣言は、フィリピンという国のアーティストが国境を越えて自らの価値を主張するものであり、まさに「ID=アイデンティティ」の体現と言えるでしょう。FELIPのソロデビュー曲「Palayo」でもビサヤ語を使用しており、母語で歌うことへのこだわりは一貫しています。
考察⑥:「20年我慢した答え」、SKY-HIの魂のラストバース
間奏の担当歌のオマケ
MVじゃ見切れてるまるでオバケ
ビール瓶と罵声のビンタも耐え
このバースが20年我慢した答え
楽曲のクライマックスを飾るSKY-HIのラストバースは、彼の20年以上にわたるキャリアの中で最も生々しい吐露の一つと言えるかもしれません。「間奏の担当歌のオマケ」「MVじゃ見切れてるまるでオバケ」という表現は、AAAにおけるラップパートの扱われ方を示唆していると考えられます。ディレクターから「ラップが嫌い」と言われた経験を持つSKY-HIにとって、この一節はまさに抑圧された20年間の集約ではないでしょうか。
「アイドル崩れの成れの果て/今じゃ仲間のためビルも買える」という対比は鮮烈です。アイドルとしてもラッパーとしても中途半端だと見なされてきた自分が、今やBMSGという会社を率い、仲間のためにビルすら購入できる存在になったという事実。これは単なる成功自慢ではなく、かつて自分を否定した全ての声に対する静かな、しかし圧倒的な回答と言えるでしょう。
考察⑦:「右でも左でもなくて上」、タイトル”ID”が示す真の意味
アイドルのくせ ラッパーのくせ
何者でもない奴がうるせー
右でも左でもなくて上
上り詰め時代を作れ
楽曲の最後を締めくくるこのフレーズは、「ID」という楽曲のテーマを最も端的に表現しています。「アイドルのくせ」「ラッパーのくせ」という外部からの批判の声を引用しながら、「何者でもない奴がうるせー」と一蹴する痛快さ。そして「右でも左でもなくて上」という宣言は、既存のカテゴリーやジャンルの二項対立を超越し、ただ「上」を目指すという明確な意思表示です。
タイトルの「ID」が持つ四つの意味、すなわち身分証明書、イド、アイドル、アイデンティティは、この楽曲に参加した全員の物語と重なります。彼らは自分たちの「身分証明」をラップスキルによって示し、無意識的な衝動(イド)に突き動かされて音楽を続け、「アイドル」というレッテルを引き受けながらも、唯一無二の「アイデンティティ」を確立してきたのです。
独自の視点:「ID inside me / ego ego」に見るフロイトの精神構造と楽曲の構造
本楽曲で繰り返されるフック「ID inside me / ego ego」は、精神分析学者フロイトの「イド(id)」と「エゴ(ego)」という概念を想起させます。イドは無意識的な本能や衝動を、エゴは現実原則に基づく自我を意味します。つまりこのフックは、「自分の内側にある衝動的な本能(ラップへの情熱)」と「それを社会的に実現しようとする自我」の共存を歌っているとも解釈できるのではないでしょうか。
また、各ラッパーのバースが日本語、英語、ビサヤ語という複数の言語で展開される構造も注目に値します。言語という最も根源的な「ID=アイデンティティ」の違いを越えて、「自分が何者であるか」を証明するという共通テーマで結ばれている点に、この楽曲の普遍性があると言えるでしょう。
まとめ
「ID」は、ジャンルの狭間で闘い続けてきたSKY-HIの20年以上のキャリアが凝縮された、まさに「存在証明」の楽曲です。SKY-HI自身の生々しい半生の告白、SHUNTOの若き挑戦者としての宣言、RYUKIの連帯の美学、JIMMYの国産への誇り、FELIPの母語による越境的な自己主張と、それぞれが異なる言葉と文脈で「自分がラップをする理由」を提示しながら、最終的に一つの答えに収斂していきます。それは「右でも左でもなくて上」、既存の枠組みを超越して新たな時代を切り拓くという決意です。
ダンス&ボーカルグループがラップをすることが世界的なトレンドとなった今だからこそ、その先駆者であり、かつて最も理解されなかったSKY-HIが放つこの一曲は、特別な重みを持っています。ぜひ、一人ひとりのバースに込められた人生の重みを感じながら、「あなたのID=アイデンティティとは何か」を問いかけてみてください。
楽曲情報
- 曲名:ID feat. SHUNTO (BE:FIRST), RYUKI (MAZZEL), JIMMY (PSYCHIC FEVER), FELIP
- アーティスト:SKY-HI
- 作詞:ist・SKY-HI・SHUNTO・RYUKI・JIMMY・Felip
- 作曲:ist・SKY-HI・SHUNTO・RYUKI・JIMMY・Felip
- リリース日:2025年1月27日(シングル配信)/ 2025年12月12日(アルバム収録版)
- 収録作品:デジタルアルバム『Success Is The Best Revenge』