愛の波

愛の波

マカロニえんぴつマカロニえんぴつ

作詞:はっとり 作曲:はっとり
歌詞考察2026.03.02

愛の波【マカロニえんぴつ】歌詞の意味を考察!ドラマ『波よ聞いてくれ』主題歌が描く”惨めでも愛し続ける”不器用な人生賛歌

「どれだけ暮らしが惨めだとしても/せめて言葉と想いは使い果たしてゆくよ」この切実なフレーズが胸を打つマカロニえんぴつの「愛の波」。2023年4月22日にデジタルシングルとしてサプライズ配信リリースされた本楽曲は、テレビ朝日系 金曜ナイトドラマ『波よ聞いてくれ』の主題歌として書き下ろされました。

ドラマの第1話放送翌日に突如配信されるという異例のリリース形態も話題を呼び、はっとり(Vo/Gt)の独特な言葉遣いと、ユニコーンからの影響を色濃く反映したポップで過剰なサウンドが多くのリスナーの心を掴みました。失恋の痛みを抱えながらも「それでも愛してしまう」という不器用な感情を、はっとりならではの言葉のセンスで綴った本楽曲。今回は、その歌詞に込められたメッセージを丁寧に紐解いていきます。

アーティスト・楽曲情報

マカロニえんぴつは、2012年に神奈川県で結成された4人組ロックバンドです。メンバー全員が洗足学園音楽大学出身という確かな音楽的素養を持ち、はっとりのエモーショナルな歌声とキーボードの多彩な音色を組み合わせた壮大なバンドサウンドが特徴。「なんでもないよ、」「恋人ごっこ」「リンジュー・ラヴ」など数多くのヒット曲を生み出し、2021年には日本レコード大賞・最優秀新人賞を受賞しています。

「愛の波」について、はっとりは「知性より野生!をモットーにとってもエキサイトしながら作りました」とコメントしています。また、音楽ナタリーのインタビューでは、サビで小節の頭にメロディを置かない手法を「リンジュー・ラヴ」から継承していることを明かし、「聴きやすいってことは聴き流されるってこと」「引っかかってほしいっていう思いがメロディにも出てきた」と語っています。さらにCメロでは雷の音をサンプリングしており、「荒波の感じを出したくて。危険な航海に嵐はつきものなんで」と制作の裏側を明かしました。

タイアップ先のドラマ『波よ聞いてくれ』は、沙村広明による同名漫画が原作。小芝風花演じる鼓田ミナレが、彼氏にフラれた上に金を騙し取られ、やけ酒の勢いがきっかけで深夜ラジオのパーソナリティとして開花していく姿を描いた作品です。プロデューサーの高崎壮太は「このドラマは『人生賛歌』なんです」とマカロニえんぴつに伝えており、その想いが楽曲に見事に反映されています。

考察①:「備わらぬ愛の波」誰にも等しく訪れない感情

誰にも彼にも 待てど暮らせど備わらぬ愛の波
わかんないことはワガママに。
さみしい人だけが let me be おともだち

冒頭から、はっとりの言葉選びが光ります。「愛の波」は「待てど暮らせど備わらぬ」ものとして描かれています。ここで注目したいのは「備わらぬ」という言葉の選択です。「来ない」でも「訪れない」でもなく「備わらぬ」つまり愛は外からやってくるものではなく、本来自分の中に「備わる」べきものなのに、それが欠けているという感覚が表現されています。

「わかんないことはワガママに。」という一文は句点で閉じられ、自分に言い聞かせるような独白の響きがあります。そして「さみしい人だけが let me be おともだち」という一節は、孤独な者同士の連帯を示しつつも、英語の「let me be」には「そのままにして」という意味も含まれ、寂しさの中に踏み込まれたくないという防衛本能も垣間見えます。タイトルにもなっている「愛の波」という言葉が、この冒頭で「手に入らないもの」として提示されることで、楽曲全体の切なさの基調が定まっていると考えられます。

考察②:「好かんが掴んだあの恋で私はできている」嫌いなのに手放せない矛盾

あなたと別れて時間ばかりが余るな 馬鹿らしい
好かんな、好かんが掴んだあの恋で私はできている

失恋後の日常が「時間ばかりが余る」という言葉で描かれます。恋人と過ごしていた時間がそのまま空白になってしまう、その虚しさを「馬鹿らしい」と突き放す語り手の姿は、まさにドラマ『波よ聞いてくれ』の主人公・鼓田ミナレの姿と重なります。

「好かんな、好かんが掴んだあの恋で私はできている」というフレーズは、この楽曲の核心的な矛盾を凝縮しています。「好かん(好きではない)」という方言的な響きの否定と、それでもその恋が自分のアイデンティティを形成しているという認識。嫌いだと思いたいのに、その恋愛体験こそが今の自分を作り上げているという事実からは逃れられない。この「否定したいのにできない」という感情は、失恋を経験した多くの人が共感できるのではないでしょうか。人称が「私」であることも印象的で、はっとりがドラマの女性主人公の視点に寄り添って書いたことがうかがえます。

考察③:「せめて言葉と想いは使い果たしてゆくよ」惨めさの中の決意

どれだけ暮らしが惨めだとしても
せめて言葉と想いは使い果たしてゆくよ
誰かに届けているつもりでいて、
まだ大丈夫?ってじぶんに訊いていたんだな

この楽曲で最も力強いメッセージが込められたパートです。「暮らしが惨めだとしても」という現実の厳しさを認めた上で、それでも「言葉と想い」だけは出し惜しみしないという宣言。ここには、ドラマで描かれるラジオパーソナリティとしてのミナレの姿と、音楽で言葉を届け続けるはっとり自身の姿が二重写しになっているように感じられます。

さらに深い洞察が続きます。「誰かに届けているつもりでいて」言葉を発信していた自分は、実は「まだ大丈夫?」と自分自身に問いかけていたのだと気づく瞬間です。人に何かを届けようとする行為が、実は自分自身を支えるための行為でもあったという発見。これは表現者の本質を突いた一節であり、小芝風花もこの歌詞に強く共感し「このお仕事をしていると人に届けるためにやっているのに、自分自身が支えられている」とコメントしています。

考察④:「恨みに鳴らさせるな愛の鐘」宮沢賢治の精神を継ぐ覚悟

雨にも風にも負けど 恨みに鳴らさせるな愛の鐘
混ざんない都会のザラザラに抱かれ泡になる

「雨にも風にも負けど」これは宮沢賢治の「雨ニモマケズ」を明確に意識した表現ですが、原文の「負ケズ」ではなく「負けど」と変えている点が重要です。「負けない」のではなく「負けるけれど」、それでもという意味に転換されています。完璧な強さではなく、負けることを前提とした上での抵抗。はっとりらしい、理想論ではなく現実に根ざした言葉選びです。

「恨みに鳴らさせるな愛の鐘」は、失恋の痛みが恨みへと変質することへの拒否です。傷ついても、その感情を憎しみに変えるのではなく、あくまで「愛の鐘」として鳴らし続けたいという意志。そして「混ざんない都会のザラザラに抱かれ泡になる」という表現は、都会の中で溶け込めずに消えてしまいそうな孤独感を、泡という儚いイメージで描き出しています。ドラマの舞台である札幌の街並みも想起させる情景描写ではないでしょうか。

考察⑤:「未来ったらし」と「きらいなひと」造語に宿る複雑な感情

どれだけ暮らしが惨めだとしても
愛してしまうのだ。思い出と未来ったらしの自分
「まさかね、ごめんね」さよなら きらいなひと

「愛してしまうのだ」という断定には、理性では止められない感情の奔流が感じられます。そして「思い出と未来ったらしの自分」という独特の造語が登場します。「未来ったらし」は、「未練たらしい」と「未来」を掛け合わせたはっとりならではの言葉遊びと考えられます。過去の思い出にしがみつきながらも、未来への期待も捨てきれないそんな未練がましくも前向きな自分を自嘲的に描いた表現ではないでしょうか。

「まさかね、ごめんね」「さよなら きらいなひと」という台詞的なフレーズも印象的です。「きらいなひと」は、別れた相手への感情であると同時に、相手を忘れられない自分自身に向けた言葉とも読み取れます。好きだったからこそ「きらい」と言わなければ前に進めないその切なさが凝縮された一言です。

考察⑥:「最終回で流れる歌を選んでいる」ラジオと人生の交差点

もう大丈夫!って気分にしていたのにな
静かに、最終回で流れる歌を選んでいる
覚醒の仕草で拡声の気疲れにも慣れ
誰もが一つの波の音に委ねた

「もう大丈夫!」と自分を奮い立たせていたのに、また揺れ戻される心。しかしここで歌詞は新たな展開を見せます。「最終回で流れる歌を選んでいる」という一節は、ドラマの最終回のエンディングテーマを選ぶような行為であると同時に、恋愛の「最終回」つまり別れという結末に流す自分のテーマソングを選んでいるという意味にも取れます。

そして「覚醒の仕草で拡声の気疲れにも慣れ/誰もが一つの波の音に委ねた」という一節は、Real Soundのレビューでも絶賛されたラインです。「覚醒(かくせい)」と「拡声(かくせい)」という同音異義語の対比は、ラジオパーソナリティとしての「覚醒」と、マイクを通じて声を「拡声」する行為を重ね合わせた見事な言葉遊びです。そして最終的に「誰もが一つの波の音に委ねた」ラジオの電波という「波」に、人々が心を預ける。ここにドラマの主題とタイトル「愛の波」の真意が結実しています。

独自の視点:「波」の多層的な意味構造

この楽曲における「波」という言葉は、少なくとも四つの意味を持っていると考えられます。第一に、ラジオの電波としての「波」。第二に、感情の波、愛情が寄せては返す不安定な心の動き。第三に、ドラマタイトル『波よ聞いてくれ』との直接的な呼応。そして第四に、宮沢賢治の「雨ニモマケズ」を引用していることから、自然の力としての「波」人間の力では抗えない大きな流れ。

はっとりがCメロに雷の音をサンプリングし「荒波の感じを出したかった」と語っていることからも、この楽曲が「波」という一つのモチーフを多角的に展開する構造を持っていることは意図的なものと考えられます。さらに、田辺由明がこの楽曲を「マカロニえんぴつの真骨頂みたいな曲」と評していることからも、バンドとしてのクリエイティビティが最も凝縮された一曲と言えるでしょう。

まとめ

「愛の波」は、失恋の痛みと、それでも愛することをやめられない人間の不器用さを、はっとり独自の言葉遣いで描き切った楽曲です。「惨めだとしても」「不甲斐ないとしても」という現実を直視しながら、「せめて言葉と想いは使い果たしてゆくよ」と宣言する姿は、ドラマの主人公・鼓田ミナレの生き様そのものであり、同時に全力で音楽に向き合うマカロニえんぴつ自身の姿勢でもあります。

「覚醒」と「拡声」、「未来」と「未練」言葉の中に幾重もの意味を織り込むはっとりの作詞術は、聴くたびに新たな発見をもたらしてくれます。宮沢賢治の精神を現代のポップソングに昇華させたこの楽曲は、「人生賛歌」というドラマの制作意図に見事に応えながらも、それを超えた普遍的なメッセージを持っているのではないでしょうか。

ぜひ、自分自身の「惨めな日々」や「不甲斐ない祈り」を思い浮かべながら聴いてみてください。きっと、「それでもいい」と背中を押してくれる「愛の波」が、あなたにも届くはずです。

楽曲情報

  • 曲名:愛の波
  • アーティスト:マカロニえんぴつ
  • 作詞:はっとり
  • 作曲:はっとり
  • リリース日:2023年4月22日
  • 収録作品:メジャー2ndフルアルバム「大人の涙」
  • タイアップ:テレビ朝日系 金曜ナイトドラマ『波よ聞いてくれ』主題歌