「摩訶不思議だ」——そんな呪文のような一節から始まるこの楽曲。Mrs. GREEN APPLEが2025年4月5日にリリースした「クスシキ」は、TVアニメ『薬屋のひとりごと』第2期第2クールのオープニングテーマとして書き下ろされた一曲です。
配信直後からストリーミングチャートを席巻し、オリコン週間デジタルシングルランキング初登場1位を獲得。MV公開からわずか5時間で再生回数100万回を突破するなど、大きな話題を呼んでいます。バンドサウンドの中にオリエンタルな雰囲気を取り入れた本楽曲は、琴や二胡といった伝統楽器も使用された、Mrs. GREEN APPLEとしても新たな挑戦となる作品です。
歌詞には「愛してる」と「ごめんね」、「今世」と「来世」といった印象的な対比が散りばめられ、聴く者の心に深く響きます。今回は、この神秘的な楽曲に込められたメッセージを歌詞から紐解いていきます。
Mrs. GREEN APPLEと「クスシキ」について
Mrs. GREEN APPLE(ミセス・グリーン・アップル)は、大森元貴(Vo/Gt)、若井滉斗(Gt)、藤澤涼架(Key)の3人からなるロックバンドです。2013年の結成以来、「青と夏」「ダンスホール」「ライラック」など数々のヒット曲を生み出し、2023年・2024年と2年連続で日本レコード大賞を受賞。名実ともに現在の日本の音楽シーンを牽引する存在となっています。
「クスシキ」というタイトルについて、ボーカルの大森元貴は「”薬”の語源になっている”奇(くす)し”という古語から『クスシキ』というタイトルを決めました。人の助けにもなり、そして毒にもなり得る薬。もともとは『神秘的な』『摩訶不思議な』という意味を持つということからヒントを得て、メロディー・歌詞ともに世界観を広げていきました」とコメントしています。
また、本楽曲のテーマについては「”今世を超え来世でも変わらない愛”をテーマとして書いた」と明かしており、目まぐるしく展開する楽曲の中に、壮大な愛の物語が込められています。
タイアップ先の『薬屋のひとりごと』は、架空の中華風帝国を舞台に、薬師の少女・猫猫(マオマオ)が後宮で起こる事件を薬学の知識で解決していくミステリー作品。宦官・壬氏との複雑な関係性も描かれるこの物語と、楽曲の世界観は見事に呼応しています。
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考察①:「摩訶不思議だ」から始まる神秘的世界
摩訶不思議だ 言霊は誠か
偽ってる彼奴は
天に堕ちていった
って聞いたんだけども
彼奴はどうも
皆に愛されてたらしい
楽曲は「摩訶不思議だ」という印象的な一言から幕を開けます。これはまさにタイトル「クスシキ」が持つ「神秘的な」「不思議な」という意味を冒頭から宣言しているかのようです。
続く「言霊は誠か」という問いかけは、言葉に宿る力——言霊への問いを投げかけています。日本古来の言霊信仰を想起させるこのフレーズは、『薬屋のひとりごと』のオリエンタルな世界観とも重なります。
そして「偽ってる彼奴は 天に堕ちていった」という逆説的な表現。通常「天に昇る」と言うところを「天に堕ちた」と表現することで、善悪や真偽の境界線が曖昧になるこの世界の不思議さを描いているのではないでしょうか。嘘をついていた者が「皆に愛されてたらしい」というのも、人の心の複雑さ、真実と虚構が入り混じる人間関係の奇妙さを示唆しています。
考察②:「あなたが居る」ことの痛みと喜び
感じたい思いは
故に自由自在だ
奇しき術から転じた ま
ほろば 「あなたが居る」
それだけで今日も
生きる傷みを思い知らされる
ここで再び「奇しき」という言葉が登場します。「奇しき術」とは、まさに薬のような、人の心を動かす不思議な力のことでしょう。そしてそこから転じた「まほろば」——素晴らしい場所、理想郷という意味を持つ古語が続きます。
大森元貴本人がインタビューで「『「あなたが居る」 それだけで今日も 生きる傷みを思い知らされる』という歌詞があるんですけど、この疾走感の中にこの歌詞が入ってるって、すごく重要なポイント」と語っているように、このフレーズは楽曲の核心部分です。
「あなたが居る」ことは喜びであると同時に「生きる傷み」でもある。誰かを愛することは、その存在によって自分の命が輝くと同時に、いつか失うかもしれないという恐れや、相手に届かない想いの痛みをも伴うものです。この両義性は、まさに「人の助けにもなり、毒にもなり得る薬」のメタファーと重なります。
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考察③:愛してるとごめんねの差は「月と太陽」
愛してるとごめんねの差って
まるで月と太陽ね
また明日会えるからいいやって
何一つ学びやしない魂も
貴方をまた想う
今世も
サビで歌われる「愛してるとごめんねの差って まるで月と太陽ね」という比喩は、非常に印象的です。「愛してる」と「ごめんね」——どちらも相手を想う気持ちから生まれる言葉でありながら、その意味合いは正反対とも言えます。
月と太陽は、夜と昼、陰と陽、そして決して同時に輝くことのない二つの存在。愛の言葉と謝罪の言葉も、同じ心から生まれながら、表裏一体であり、どちらかしか選べない瞬間があるのかもしれません。
「また明日会えるからいいやって 何一つ学びやしない魂」という自嘲的なフレーズには、大切な人との時間を当たり前のように思ってしまう人間の性が描かれています。それでも「貴方をまた想う 今世も」と締めくくることで、不完全な自分でも愛し続けることの尊さを歌っているのではないでしょうか。
考察④:自分軸で生きられない「私」の葛藤
奉仕だ こうしたいとかより
こうして欲しいが聞きたい
思いの外 自分軸の世界
一周半廻った愛を喰らいたい
私に効く薬は何処だ
2番では、語り手の内面がより深く掘り下げられます。「こうしたいとかより こうして欲しいが聞きたい」という一節は、自分の欲求よりも相手の望みを優先してしまう、あるいは相手に必要とされたいという切実な願いの表れでしょう。
「思いの外 自分軸の世界」という言葉には、皮肉も込められているように感じます。誰もが自分のことで精一杯な世界で、他者を想って生きることの難しさ。そんな中で「一周半廻った愛を喰らいたい」——単純な好意ではなく、複雑に回り巡った、深みのある愛を求める心情が歌われています。
そして「私に効く薬は何処だ」という問いかけ。この苦しみを癒してくれるもの、自分を救ってくれる存在はどこにいるのか。タイトルの「クスシキ」が「薬」の語源であることを思えば、愛する人こそが自分にとっての「薬」なのかもしれません。
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考察⑤:素直になれない私、拗れる恋模様
馬鹿に言わせりゃ
この世は極楽だ 正直になれない
私はいつか
素直になれるあの子にきっと
色々と遅れては奪われる
「馬鹿に言わせりゃ この世は極楽だ」——何も考えずに生きられる人には、この世界は楽園に見えるのでしょう。しかし語り手は「正直になれない」自分を持て余しています。
「素直になれるあの子にきっと 色々と遅れては奪われる」という一節には、自分の気持ちをストレートに表現できる人への羨望と、そうできない自分への苛立ちが滲んでいます。素直になれないがゆえに、大切なものを逃し、他の誰かに奪われてしまう——恋愛においてよくある苦しみが、リアルに描写されています。
愛してると大好きの差って
まるで月と月面ね
また呑んだ言葉が芽を出して
身体の中にずっと残れば
気づけば拗れる恋模様
めくれば次の章
2番のサビでは、比喩が変化します。1番では「愛してるとごめんね」が「月と太陽」でしたが、ここでは「愛してると大好き」が「月と月面」に例えられています。
月と太陽は対照的な存在でしたが、月と月面は同じものの表と裏、見える部分と見えない部分という関係です。「愛してる」と「大好き」は似ているようで、その深さや重みは異なる。同じ気持ちの濃淡、あるいは表現の違いに過ぎないのかもしれません。
「呑んだ言葉が芽を出して 身体の中にずっと残れば」——言えなかった言葉が心の中で育ち、やがて自分を蝕んでいく。そうして「拗れる恋模様」が生まれていくのです。
考察⑥:「石になった貴方」と「病になった私」
石になった貴方の歌を
口ずさんで歩こう
ひとりじゃないって笑おう
分厚めの次の本
病になった私の歌を
口ずさんで歩こう
ひとりの夜を歩こう
Cメロでは、「石になった貴方」と「病になった私」という対比が登場します。「石」は不変性、永遠性の象徴。貴方の存在、貴方が残した言葉や想いは、石のように変わることなく在り続けます。
一方で「私」は「病」になっている。恋は病とも言われますが、愛することで傷つき、苦しみ、それでも立ち止まれない状態を「病」と表現しているのでしょう。
「ひとりじゃないって笑おう」と「ひとりの夜を歩こう」——この二つの対照的なフレーズが並ぶことで、孤独と繋がり、絶望と希望が交錯する複雑な心情が浮かび上がります。誰かを想うことで「ひとりじゃない」と思える瞬間があっても、実際には「ひとりの夜を歩」かなければならない現実。その両方を受け入れて歩いていく覚悟が歌われているように感じます。
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考察⑦:今世も来世も続く永遠の愛
愛してるよ
ごめんね
じゃあね
まるで夜の太陽ね
クスシキ時間の流れで
大切を見つけた魂も
貴方をまた想う
来世も
ラストサビでは、これまでの比喩がさらに昇華されます。「愛してるよ ごめんね じゃあね」——愛の言葉、謝罪、そして別れの言葉が畳みかけられます。これは別れの場面なのか、あるいは毎日の何気ない別れ際の言葉なのか。
「まるで夜の太陽ね」という表現は、1番の「月と太陽」、2番の「月と月面」を経て辿り着いた、矛盾を孕んだ美しいイメージです。本来、夜に太陽は存在しない。しかしその不可能な存在こそが、この愛の本質なのかもしれません。理屈では説明できない、「摩訶不思議」で「クスシキ」感情。
「クスシキ時間の流れで 大切を見つけた」——不思議な、神秘的な時の流れの中で、本当に大切なものに気づいた魂。そしてその魂は「貴方をまた想う 来世も」と結ばれます。
「今世も」で終わった1番に対して、ラストは「来世も」。この楽曲が描くのは、一つの人生で完結する愛ではなく、輪廻を超えて続く永遠の愛なのです。大森元貴が語った「今世を超え来世でも変わらない愛」というテーマが、ここに結実しています。
「クスシキ」が描く愛の両義性
本楽曲の歌詞を通じて見えてくるのは、愛というものが持つ両義性です。「愛してる」と「ごめんね」、「月」と「太陽」、「薬」と「毒」、「石」と「病」——様々な対比を通じて、愛することの光と影が描かれています。
タイトル「クスシキ」が示すように、愛は「神秘的」で「摩訶不思議」なもの。そして薬のように、人を癒すこともあれば傷つけることもある。しかしそれでも私たちは愛し続ける。今世で叶わなくても、来世でまた想い続ける。そんな愛の力強さと切なさが、疾走感のある楽曲の中に詰め込まれています。
『薬屋のひとりごと』の猫猫と壬氏の複雑な関係性とも重なるこの歌詞。素直になれない「私」の葛藤、言葉にできない想い、それでも相手を想い続ける心——作品のファンにとっても、恋愛を経験した全ての人にとっても、深く響く楽曲ではないでしょうか。
ぜひ歌詞を読み込みながら、この「クスシキ」な世界に浸ってみてください。あなたはこの歌詞をどう解釈しますか?きっと聴くたびに、新たな発見があることでしょう。Mrs. GREEN APPLEが紡ぐ、今世から来世へと続く壮大な愛の物語を、心ゆくまでお楽しみください。
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楽曲情報
- 曲名:クスシキ
- アーティスト:Mrs. GREEN APPLE
- 作詞:大森元貴
- 作曲:大森元貴
- リリース日:2025年4月5日
- 収録作品:配信限定シングル
- タイアップ:TVアニメ『薬屋のひとりごと』第2期 第2クールオープニングテーマ