忘れる前に

忘れる前に

VaundyVaundy

作詞:Vaundy 作曲:Vaundy
歌詞考察2026.03.02

忘れる前に【Vaundy】歌詞の意味を考察!”夢の中の灯火”が照らす儚い記憶と愛する勇気

「街の風景にうなだれて 街を背景に黄昏て」どこか物憂げで、それでいて温かみのある言葉で幕を開けるVaundyの新曲「忘れる前に」。2025年9月30日に配信リリースされた本楽曲は、有村架純さんが出演する東京メトロ「Find my Tokyo.」のCMソングとしても起用され、軽やかなメロディと情感豊かな歌詞が多くのリスナーの心を捉えています。「夢」と「記憶」を軸に展開される歌詞には、Vaundyならではの詩的な世界観が凝縮されており、聴くたびに新しい発見があるような重層的な構造が魅力です。今回は、この楽曲に込められたメッセージを歌詞から丁寧に紐解いていきます。

アーティスト・楽曲情報

Vaundy(バウンディ)は、2000年生まれ・東京都出身のシンガーソングライターです。作詞・作曲・編曲はもちろん、アートワークデザインや映像制作までセルフプロデュースするマルチアーティストとして知られています。2019年にYouTubeへの楽曲投稿で活動を開始し、「東京フラッシュ」「不可幸力」がSNSを中心に大きな反響を呼びました。その後も「怪獣の花唄」「踊り子」「花占い」などヒット曲を連発し、2022年にはNHK紅白歌合戦に初出場。現在までに計17曲がストリーミング累計1億回再生を突破しており、令和の音楽シーンを牽引する存在として幅広い世代から支持されています。

「忘れる前に」は、2025年9月30日に配信限定シングルとしてリリースされました。作詞・作曲はVaundy本人が手がけ、カバー写真も自身が担当しています。本楽曲に関するアーティスト本人からの詳細なコメントは公式には発表されていませんが、有村架純さん出演の東京メトロ「Find my Tokyo.」CMソングに起用されたことで、街を散策して新たな魅力を発見するCMの世界観と楽曲の「探し物」というモチーフが美しく共鳴し、大きな話題を集めました。

考察①:街に溶け込む黄昏”うなだれて”から始まる物語

街の風景にうなだれて
街を背景に黄昏て
思い出した

冒頭のAメロは、主人公がどこか気怠げに街の中を歩いている情景から始まります。「うなだれて」という言葉は、疲労感や倦怠感だけでなく、何かを失った後の虚脱感をも連想させます。そして「街を背景に黄昏て」では、「黄昏る」という動詞が、単なる夕暮れの描写を超えて、物思いにふける主人公の内面を映し出しています。注目すべきは、「街の風景に」と「街を背景に」という二度の「街」の反復です。主人公は街の一部でありながら、同時に街から切り離されたような孤独を感じているのではないでしょうか。そして唐突に訪れる「思い出した」という短い一文。この三文字が、物語全体を動かすトリガーとなっています。何を思い出したのかそれは、この楽曲を通じて少しずつ明かされていきます。

考察②:「手探り探して」受動から能動への転換

ねぇお願い
見てるだけじゃ
探し物は全然
見つからないよ
お願い
手探り探して
夢から覚めて
忘れる前に

Bメロでは、主人公の語りかけが一気に切実さを増します。「見てるだけじゃ探し物は全然見つからないよ」というフレーズは、ただ傍観しているだけでは大切なものは手に入らないという、行動への強い促しとして響きます。ここで興味深いのは、「お願い」が二度繰り返されている点です。最初の「ねぇお願い」は呼びかけとしての柔らかさがありますが、二度目の「お願い」はより直接的で、懇願に近い響きを帯びています。そして「手探り探して」という表現には、暗闇の中で確証もなく手を伸ばす不安定さが込められています。「夢から覚めて 忘れる前に」この二行がタイトルへと繋がり、楽曲の核心である「忘却への抗い」が明示されます。夢から覚めること自体が目的ではなく、覚める前に大切な何かを掴み取ることこそが主人公の願いなのだと考えられます。

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考察③:夢の中の灯火が消えゆく光を追いかけて

僕ら夢の中
消えそうな
灯火探して話をしている
これが夢ならば
試そうか
繊細な思い出だけを
引っ張り合って

サビに入ると、主人公は「僕ら」という一人称複数を用い、「君」と共に夢の中にいることが明かされます。「消えそうな灯火」を探しながら話をしているという情景は、非常に幻想的であると同時に、深い切なさを湛えています。ここで登場する「灯火(ともしび)」というモチーフは、Vaundyにとって特別な意味を持つ言葉です。彼のデビュー初期の楽曲にも「灯火」というタイトルの作品があり、小さく揺れる光は彼の音楽世界において「希望」や「繋がり」の象徴として繰り返し描かれてきました。「これが夢ならば試そうか」という一文には、夢の中だからこそ許される大胆さ、現実では踏み出せない一歩を夢という安全な場所で試みようとする心理が表れています。そして「繊細な思い出だけを引っ張り合って」二人は思い出の糸を手繰り寄せるように、記憶の断片を共有しているのではないでしょうか。

考察④:頬をつねる夢と現実を確かめる衝動

泡の暴発に急かされて
空の轟音にかこつけて
頬をつねった

2番のAメロでは、より激しいイメージが展開されます。「泡の暴発」は、シャボン玉が弾けるような儚さであると同時に、抑えきれない感情の噴出をも暗示しているように読み取れます。そして「空の轟音にかこつけて」雷鳴や飛行機の音、あるいは花火のような大きな音を口実にして、主人公は「頬をつねった」のです。これは夢か現実かを確かめるための古典的な行為ですが、ここでは単なる確認行為以上の意味があると考えられます。自分が今感じているこの想いが本物なのかどうか、その感覚の実在性を確かめたいという衝動が伝わってきます。外界の轟音を「かこつけて」と表現する巧みさも、Vaundyの言語感覚ならではです。本当は理由など必要ないのに、何かを言い訳にしなければ自分の感情に向き合えない。そんな繊細な心の動きが描かれています。

考察⑤:竜に託した願い「今だけ持たせて、愛する勇気を」

「あれはっ!」
目を奪われた君の横瞳を眺め
奥に潜んだ竜に、幻う願いを
「今だけ持たせて、愛する勇気を」

ここは本楽曲で最も印象的なパートの一つです。「あれはっ!」という感嘆は、何かを発見した瞬間の驚きであり、その視線の先には「君の横瞳」があります。「横瞳」とは横顔の目、つまり相手の瞳を横から覗き込む構図であり、正面からではない角度での観察が、密やかな想いの深さを物語っています。そしてその瞳の「奥に潜んだ竜」これは瞳の奥に見える強さや神秘性、あるいは相手の内に秘められた生命力の象徴と解釈できます。「幻う(まぼろう)」という造語的な動詞の使い方もVaundyらしい表現です。竜に「今だけ持たせて、愛する勇気を」と願いを託すこの一節には、自分の力だけでは保てない勇気を、超自然的な存在に頼ってでも手に入れたいという切実さが込められているのではないでしょうか。

考察⑥:某星のエイリアンズ、異次元の存在感を超えた「君」

もう君は魅惑を超えた
それはもう
某星のエイリアンズ
にも負けないよ
だから
手探り満たして
魔法が解けて
途切れる前に

Cメロで登場する「某星のエイリアンズ」という表現は、非常に興味深いフレーズです。これはキリンジ(現KIRINJI)の名曲「エイリアンズ」を想起させる表現であり、音楽ファンの間でも話題を呼んでいます。「エイリアンズ」が描く幻想的で美しい夜の世界観を踏まえた上で、「君はそれにも負けない」と宣言するこの一節は、「君」の存在がいかに特別で超越的であるかを伝えようとしているのだと考えられます。そしてここでは「忘れる前に」が「途切れる前に」へと変化しています。夢からの覚醒だけでなく、「魔法が解ける」という表現が加わることで、二人の時間がまるでシンデレラの魔法のように期限付きのものであることが示唆されます。その魔法が解ける前に、手探りでもいいから心を満たしたい、そんな切迫した想いが歌われています。

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考察⑦:バクに食われた夢、オノマトペが描く消失の美学

ツルリ、ツルリ
熱にやられて
ゴクリ、ゴクリ
ぼやけ始めて
ツルリ、ツルリ
君を忘れて
ゴクリ、ゴクリ
バクに食われた

楽曲の最後を飾るこのアウトロは、それまでの歌詞とは一線を画する独特の構造を持っています。「ツルリ」「ゴクリ」というオノマトペが交互に繰り返され、まるで記憶が一枚ずつ剥がれ落ちていくような、あるいは何かが喉を通り過ぎていくような感触を生み出しています。「ツルリ」は滑り落ちる感覚、「ゴクリ」は飲み込む感覚、記憶が滑り落ち、それを飲み込まざるを得ない残酷さが、擬音語によって生々しく表現されています。そして最後の「バクに食われた」。バク(獏)は日本の伝承において夢を食べる幻獣として知られています。楽曲全体を通じて必死に守ろうとしてきた夢の記憶が、最終的には獏に食べられてしまう。この結末は、人間の記憶の儚さを示すと同時に、だからこそ「忘れる前に」行動しなければならないという楽曲のメッセージを逆説的に強調しているのではないでしょうか。

独自の視点:「灯火」と「Find my Tokyo.」Vaundyの作品世界と東京

本楽曲を読み解く上で見逃せないのは、Vaundyの作品世界における「灯火」というモチーフの一貫性です。デビュー初期の楽曲「灯火」はFODドラマ「東京ラブストーリー」の主題歌であり、やはり東京を舞台にした物語に寄り添う楽曲でした。「忘れる前に」においても「消えそうな灯火」は中心的なイメージとして機能しており、Vaundyにとって「灯火」が人と人との繋がり、あるいは失われゆく大切なものの象徴として根深く存在していることが窺えます。さらに、東京メトロ「Find my Tokyo.」のCMソングという文脈を重ねると、「街の風景にうなだれて」「探し物は全然見つからないよ」といった歌詞が、東京という巨大な都市の中で自分だけの大切な何かを見つけ出すという行為と重なり合います。ただ通り過ぎるだけでは見えないもの、手を伸ばさなければ掴めないもの、それは東京の魅力であると同時に、人の記憶や感情そのものなのかもしれません。

まとめ

「忘れる前に」は、夢と現実の境界線上で揺れ動く感情を、Vaundyならではの詩的な言語感覚で描き出した楽曲です。消えそうな灯火を追い求め、繊細な思い出を引っ張り合い、愛する勇気を竜に願う。その一連の物語は、大切な人や記憶が失われていくことへの恐れと、それでも手を伸ばし続けたいという切実な願いに満ちています。

最終的に夢はバクに食われてしまいますが、だからこそ「忘れる前に」という言葉が一層の重みを持って響きます。記憶は永遠ではない、だから今この瞬間に目を擦り書き留めなければならない。この楽曲が伝えるのは、そんな普遍的で力強いメッセージなのではないでしょうか。ぜひ、東京の街を歩きながら、あるいはふと過去を思い出した黄昏時に、この楽曲に耳を傾けてみてください。あなたにとっての「消えそうな灯火」が何であるか、きっと新しい気づきがあるはずです。

楽曲情報

  • 曲名:忘れる前に
  • アーティスト:Vaundy
  • 作詞:Vaundy
  • 作曲:Vaundy
  • リリース日:2025年9月30日
  • 収録作品:配信限定シングル「忘れる前に」
  • タイアップ:東京メトロ「Find my Tokyo.」CMソング